記憶を思い出すのにかかる時間は0.3秒?!
難しい漢字でも字を見れば読めるのに、
思い出して書くのは難しい・・・。
そんなこと、しょっちゅうだ、という方は
多いのではないでしょうか?
この思い出すこと、
これは脳の中でどのようになっているのか、
かかる時間はどのくらいなのか、興味あることです。
記憶している事柄を思い出す脳の作業は、
時間がかかる複雑なプロセスであることを
東京大学医学部の宮下保司教授らのグループは、
動物実験で示すのに成功し、
2001年1/26日付の米科学誌「サイエンス」に発表しています。
その内容とは・・・
サルに1つの図形のペアを多数記憶させたうえ、
一方を見せて、もう片方の図形を思い出させる実験。
実験中にサルの脳の働きを調べた結果、
記憶するときには、
目から入った情報は大脳皮質を経由して、
記憶の形成に関係する側頭葉下側「辺縁系」
と呼ばれる部分に流れることがわかりました。
逆に思い出すときは
辺縁系から新皮質に信号が伝わりました。
記憶時の信号伝達にかかる時間は
0.01秒程度なのに対し
思い出す時には0.3秒程度かかり、
この作業が時間のかかるプロセスであることが
初めて実験で示されました。
最近は漢字を書く時も、
パソコンで変換してしまうことが多くなったためか、
見れば読めますが、なかなか正確に
書けなくなっているのが現状ですね。
これはこの実験で明らかになっているように
脳の信号の伝わる時間の違いによるもの、
ということだったのです。
【記憶の神経回路】
さらに、
記憶情報がどのような神経回路を通って
処理されるかを2011年、同グループは、
サルを用いた実験で明らかにしました。
この実験内容とは、
実験動物のマカクサルに、
数ヶ月かけてモニター画面に2種類づつの図形を
ペアにして複数覚えさせます。
そのうえで、1種類だけ映し出し
ペアになる図形を選び出させる実験を実施、
1日に500~1000回繰り返し、
正解するごとにジュースを報酬として与えていきました。
微細なハリを脳に入れて電流を測り、
神経活動を記録していきました。
側頭葉の皮質は大きく6層(1層~6層)に分かれています。
それぞれから電流を同時に記録したところ、
サルがモニターに映る
1種類の図形を見ているときと、
それとペアになる図形を思い出そうとしている時では
別の神経芽活動していることがわかりました。
視覚情報を処理する時は、
脳表面にある2層、3層の神経が最初に興奮し、
その後、4層、さらに深い部分の5層、6層が興奮しました。
記憶を呼び起こそうとする時にはまず、
5層、6層が興奮し、4層や2層、3層へ興奮が
伝わっていきました。
いったん覚えたことを思い出す
「記憶の再生」に重要な働きをする遺伝子と
その遺伝子が働く脳内の場所を特定することに、
米マサチューセッツ工科大の利根川進教授、
中沢一俊博士らのグループがマウスを使った実験で成功、
2002年5/30付けの米科学誌サイエンスの
オンライン版で発表した。
この遺伝子は、
脳の主要な神経伝達物質グルタミン酸と結びつく
「NMDA受容体」というタンパク質を作る遺伝子。
脳内の別の場所では、
物を覚える「記憶の獲得」の関わっていることを、
同教授らが1996年に発見済み。
複雑な脳機能である記憶の
分子レベルでの解明に向け、大きな成果と注目される。
このように私たちの脳の中では、
見て記憶するときと、それを思い出す時の
資格情報処理の経路が違うということ、
そして、それによる思いだし作業にかかる時間が、
0,3秒であること。
さらにその記憶を司るタンパク質が
何かということもわかってきました。
これからますます脳のこと、
記憶のことについて、
実験が続いていくものと思われます。
とても楽しみですね。
注目していきたいと思います。