人間の脳は忘れるようにできている?!
19世紀のドイツの実験心理学者エビングハウスは
人間の脳は「忘れるようになっている」
ことを発見しました。
エビングハウスは無意味なアルファベットの
配列3文字を被験者にたくさん記憶させ、
それが忘れられていく時間と量を調べてグラフにしたのです。
エビングハウスの実験によれば、
人は記憶したことを20分後には4割以上忘れ、
1日後には7割以上を忘れてしまいます。
つまり、放っておけばその日のうちに
大半の記憶が消滅するということです。
なぜ人の脳は忘れるようにできているのでしょうか。
それは脳が、生存にかかわる重要な情報を優先して
記憶するためです。
もしも、エビングハウスの実験のような
無意味な文字の配列や、友人たちとのたわいのない
馬鹿話の一語一語、道行くたくさんの見知らぬ人の顔、
壁の複雑なしみの形など、
見聞きしたあらゆることが忘れられなくなり、
日夜、洪水のように頭にあふれ出したら…
忘却の役割はおのずとわかるでしょう。
■海馬は「記憶の司令塔」
海馬は脳の中では小さな器官で、
神経細胞の数は1000億個。
脳全体の1万分の1に過ぎません。
海馬は小さな器官ながら、大脳に入った情報の
取捨選択をして、記憶全体をつかさどる
きわめて重要な役割を果たしています。
一昔前の脳科学の本には、
「脳細胞は毎日おびただしい数が死滅しており、
決して増えることはない」などと述べられていますが、
少なくともこの海馬だけは細胞分裂を
繰り返して増えることがわかっています。
海馬は、パソコンでいえば
一時的なメモリーの役割を果たします。
そして必要があれば、
パソコンを終了する前にデータを保存するのと
同じように、海馬もデータを大脳皮質に送って
長期記憶として保存します。
大脳皮質に長期記憶された
メモリーを呼び出すことが、思い出すという作業です。
■扁桃体は感情記憶への関与
海馬がどのようにして長期記憶を
決定しているのかは、よくわかっていません。
しかし、近年の脳科学の研究で
扁桃体(へんとうたい)という直径1cm位の丸い形をした
器官が海馬と影響し合っていることがわかっています。
扁桃体は大脳皮質の内側にある
大脳辺縁系の下のほうに位置しており、
快不快を判断するのが主な役割です。
私たちが見たり、聞いたり、臭いをかいだり、
触ったり、味を味わったりしたときに得た感覚情報は、
大脳皮質から扁桃体に伝わり、好き嫌いが判断されます。
異性が好きになるのも、何かをとても好きになるのも、
この扁桃体の仕業だったのです。
扁桃体は海馬の隣にあり、好き嫌いや
快不快の感情を海馬に伝えます。
そのため、心を大きく揺さぶるような出来事は
いつまでも記憶にとどめられています。
記憶は、情緒や感情の働きに影響されていることが、
脳の働きの面からも説明できるようになりました。
好奇心を刺激する好きな科目や、
大好きな先生の授業の成績がよくなるのも、
扁桃体が海馬に影響しているためだといえるでしょう。
逆に、嫌いな先生の受け持つ科目や
まったく興味が持てない科目は、
放っておくと成績が悪くなります。
経験したことはありませんか?
童話や昔話が覚えられるのも、
繰り返し聞かされるからということだけでなく、
登場人物のキャラクターや、興味あるストーリーが
好奇心を刺激し、感情に残るからでしょう。