うつ病の原因は・・・
これに関しては、前回にも少しふれていますが、
うつ病がなぜ起こるのかという、
その原因や発症メカニズムについては、
まだはっきりしたことはわかっていません。
しかし、これまでの研究から脳の中で
感情をコントロールしている物質
(神経伝達物質)のバランスが崩れてしまうことが
原因のひとつだと考えられています。
私たちの脳は、
無数の神経細胞で構成されています。
これらの神経細胞は
『神経伝達物質』という物質を介して
さまざまな情報を伝え合い、
複雑な働きを担っています。
ところが、ストレスを抱えていたり、
心身ともに疲れている状態が続いたりすると、
この神経伝達物質の量や働きも
十分ではなくなってきます。
なかでも、意欲や気分を調整する
「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といった
神経伝達物質が十分に機能しなくなると、
感情をうまくコントロールできなくなって、
うつ状態に陥ってしまうといわれています。
つまり、うつ病とは“精神的・肉体的疲労が
続いていくうちに脳の中の「セロトニン」や
「ノルアドレナリン」といった
神経伝達物質の働きに異常を来してしまい、
そのためにさまざまな症状が出現する病気”なのです。
また研究が徐々に進んできて、最新の情報も発表されています。
脳科学研究の進歩により
うつ病の形態病理は大きく変化しています。
それは、うつ病研究の焦点が,
そのターゲットも分子から遺伝子レベルへと
変化してきています。
一方,脳機能画像解析研究も著しく進歩して,
これまで不可能であった微細な脳の
形態や機能の解析が可能となってきました。
MRI によるうつ病患者の脳解析から
海馬の萎縮が相次いで報告され,
神経解剖学的異常はないという
従来の定説が覆されようとしています。
米国NIMH を中心とした共同研究によると、
幼少時期の心的外傷体験の有無により、
うつ病患者を2 群に分けて海馬体積を比較しました。
その結果,体験有り群の左側海馬体積が
有意に減少していることが実証され,
幼少時期の心的外傷体験が海馬萎縮と
密接な関係があり,これがうつ病の発症にも
関連する可能性が報告されています。
海馬は短期記憶をするところということは
前にも説明してありますが、
まず記憶の入り口ということですから
とても記憶するという面では、重要な部分ではあります。
それがこの研究結果では、うつ病になると
この海馬が委縮する、
つまり小さくなってしまうということが
わかったわけです
。
この状況はストレスでも起こることが
実験でわかったようです。
以下抜粋です。
▼
最近わが国において,乳幼児を含む児童に対する
身体的虐待,性的虐待および心理的虐待
(ニグレクト)に関する悲惨な報道が目立っている.
また,離婚率増加に伴い,
乳幼児早期から育児放棄,母子分離の状態にある
子供たちも増加しているといわれている.
最近のうつ病に関する臨床疫学的研究では,
幼少時期の虐待体験や不遇な養育環境が
成熟後のうつ病の発症危険因子となること
報告されて
いる.
ラットの誕生から2日目から母子を離していき、成熟後
90 日目に2 時間の拘束ストレスを負荷し,
ストレス解放後の運動量測定および
ストレス負荷前後の血清コルチコステロン濃度を
測定すると、母子分離群では運動量の低下,学習性
無力ラットの頻度の増加が認められ母子分離が
成熟後のストレス脆弱性を形成することが明らかとなった.
母子分離は海馬神経の発達に関連する遺伝子発現に
影響を及ぼし,これがストレス脆弱性形成
およびうつ病発症に関与している可能性が推測された.
また、感情制御には視床,扁桃体,海馬を含む
大脳辺縁系と大脳皮質前頭前野が重要な役割を
演じていることが知られています。
興味深いのは、快・不快の予測課題を
健常者で検討した結果,
快の予測は左前頭前野が,
不快の予測は右前頭前野が、
および前部帯状回が有意に活動していることが
明らかとなったということです。
これを、うつ病患者と比較検討したところ,
うつ病では快予測に関与する
左前頭前野の活動が低下していたのに対し,
不快予測に関与する右前頭前野,前部帯状回の活動
は亢進しており,不快予測が優位な状態と
なっているため悲観的思考になることが推測されるということです。
だからうつ状態になると、ネガティブになり、
生きる事に消極的になる傾向が
うなずけます。
また言葉の流暢さにおいては、うつ病患者と健常者で比
較した結果,うつ病患者では左前頭前野の
ブロードマン46 野の活動低下が認められた.
言葉は左脳ということでうつ病になると、
それが円滑ではなくなるということがわかります。
以上最新の情報ですが、
少し専門的な言葉が多く、
わかりにくかったかもしれませんが、
心の感情という面では、生まれたばかりの母子分離は
ストレスにより、成長してからの
うつ病発生の可能性が生じるということ
快・不快という感情においては、
通常、快の感情は左前頭前野が、
不快の感情は右前頭前野が
働いているということ、
さらに、うつ病になるとその不快を感じる
右前頭前野の活動が亢進しているため、
悲観的になりやすいことなど、
解明されつつあります。
今回はうつ病の原因を深いところから、
研究発表をもとに、分析してみました。
いかがでしたか?
次回は高齢者のうつ病についてです。